星食観測の方法
眼視観測
i. ストップウォッチ法
ストップウォッチを持って現象時刻を待ちます。短波標準時報や固定電話の時報も聞けるようにしておきます。星が消えたあるいは現れたら、ストップウォッチを押します。そして、時報の正分のとき、ストップウォッチを止めます。現象時刻は、ストップウオッチの秒数だけ正分より前であることから求められます。ただしこの場合、現象を見てからストップウォッチを押すまでの時間を補正しなければなりません。また、ストップウォッチを止めるタイミングのずれも誤差要因となります。LOW(Lunar Occultation Workbench) というソフトウエアには、個人差を測定する機能がありますので、それを使って調べるとよいでしょう。
ii. テープ(ボイスレコーダー)法
テープレコーダーなどに、短波標準時報などの音とともに観測者の声を記録する方法です。この方法の利点は、複数回の現象が起こる接食の場合に、それらの間隔が短い場合でも対応できることにあります。また、テープへの記録により時刻読み取りの誤りが少なく、後に繰り返して再生させて確認できる点でも優れており、多くの観測者がこの方法を用いています。
この方法では、現象を見てから声を出すのに要した時間を補正する必要があります。
iii. 目耳法
目耳法は、短波標準時報や固定電話などの時報音を聞きながら対象星(あるいは出現するはずの位置)を見つめます。星が消えた(出現した)瞬間が、1秒ごとの時報音の間の10分のいくつであったかを見積もると、0.1秒単位の観測ができます。この方法は、声を出したりストップウォッチを押したりするような方法と異なり、反応時間を考慮する必要がありません。ただ、正確な見積もりができるようにするためには、ある程度の訓練が必要です。
ビデオ観測
ビデオを使うと、1/30秒という比較的高い精度で観測を行うことができます。また、個人差の考慮の必要のない客観的なデータを得ることができます。更に、画像解析ソフトを使うと、重星等の様々な情報を得ることもできます。以下に、ビデオ観測の方法を説明します。
1.ビデオカメラ
(1)機材
日本では、2008年9月の時点で、星食観測には一般的にWATEC社のWAT100NおよびWAT120N+が用いられています。これらのビデオカメラは夜間監視用カメラを元に天文用として開発され販売されているものです。前者は感度が高く、後者は1から256フレームまでの蓄積ができることと低ノイズであることが特徴です。
(2)使い方
ゲインはマニュアルに。ガンマ補正はOFFにします。この設定で、カメラへの入力とビデオ出力がほぼ完全にリニアな関係になり、ビデオカメラを計測器として利用できるようになります。また、蓄積や高速シャッターは、時刻精度への影響が大きいことから、なるべく使わないようにします。(極端に暗い星などの場合は、蓄積の効果がある場合もあります。)
ゲインコントロールについては、暗い星の場合、ゲインを上げた方が画面上で見やすくなります。しかし、バックグラウンドノイズも増えてしまいますので、後に述べるLimovieを活用する場合には、バックグラウンドにわずかにノイズが乗る程度に上げておくとよいでしょう。モニターを目で見て時刻を調べるのであれば、多少ゲインを上げてもかまいません。
ビデオカメラからの出力は、TIViやKIWI-OSDのビデオ入力端子につなぎます。
2.ビデオレコーダー
(1)機材
これまで、主としてミニDVテープを用いるVTR(カムコーダー)が星食観測の記録に用いられてきました。DV方式は、圧縮率が比較的低く、時間方向の圧縮が行われないことから、星食観測には理想的な記録形式です。つい最近まで、アナログビデオの入力端子を持ったミニDVカムコーダーが各社から発売されており、ビデオカメラをつないで観測画像を記録していました。
ところが、HDDドライブやDVDに記録するタイプのカムコーダーが普及する中で、ミニDVテープのカムコーダーの機種が少なくなってきてしまいました。2008年11月28日現在で、一般的に入手可能なミニDVテープを使った、アナログ入出力が可能なカムコーダーは、Canon社の iVIS HV30 のみです。また、中古の旧式機種でも星食観測には充分活用できますので、入手可能であれば活用するのもよいでしょう。カムコーダー以外にも、DV方式による録画方法として、カノープス社のコンバータ ADVC-55等を経由してパソコンに直接キャプチャする方法もあります。最近のノートパソコンは処理が高速になっており、駒落ち等がなく良好な記録をすることができます。
一方、HDDドライブに記録するカムコーダーは、MPEG2と呼ばれる圧縮法によるファイルで記録が行われます。MPEG2は、隣り合うフレーム同士で演算を行いながら圧縮する方法で、DV方式に比べて高い圧縮率を持っています。しかし、時間軸方向の演算が行われることから、DV方式に比べて現象時刻の記録精度が低下する可能性があります。しかし、これまで筆者が調べた中では、DVからMPEGに変換しても、後述の光量測定ソフトLimoiveによる測定値の違いはほとんどない、という結果となっています。幸いなことに、最近はこれらの機種にもAV入出力端子を持つものが増えてきており、ビクター、日立から発売されています。DV方式の機種に比べて安価であることから、これらの機種を選ぶのもよいでしょう。
(2)使い方
ミニDVカムコーダーの場合に、機種によってアナログ信号の入力と出力をメニューで切り替えるタイプのものもあります。カムコーダーのマニュアルを読んで、アナログからの記録を可能に設定してください。後は録画ボタンを押すだけです。
パソコンにキャプチャする場合でも、多くのキャプチャソフトでは画面の録画ボタンを押すだけであり、操作性はカムコーダーと大差ありません。
3.GPSレシーバー
(1)機材
GPSレシーバーの中には、UTCに数百ナノ秒の精度で同期した秒信号を出力するものがあります。この信号を基準時刻信号として用いられることが多くなりました。次項のビデオタイムインサータに接続して利用します。
(2)使い方
GHS時計のように、時計装置に内蔵されている(標準的な工作ではそのようになります。)ものや、KIWI-OSDのようにDIN端子で接続するものなど様々です。装置のマニュアルを参照してください。
4.ビデオタイムインサータ
(1)機材
ビデオカメラの出力する映像に時刻信号をスーパーインポーズするための装置です。日本で開発されたGHS時計+TIViや、ニュージーランドで開発されアメリカから発売されている KIWI-OSD が有名です。TIViは、固定電話の音声信号などにも同期可能なことや、一度同期すると内蔵された精密時計で保時できるなどの特徴があります。ただ、時刻表示は手動で合わせなければなりません。一方、KIWI-OSDは、時刻信号はGPSのみから得ることになりますが、GPSから時刻の数値を読み取り、自動的に現在時刻を表示します。これらの装置の入手方法については、コーディネーターにご相談ください。
(2)使い方
入力端子に、ビデオカメラの出力をつなぎ、出力端子とビデオレコーダーの入力端子をつなぎます。TIViの場合には、スイッチを押して、現在時刻と合わせます。
5.ビデオモニター
カムコーダーでコマ送りを行い、潜入の場合は星が消えたフレーム、出現の場合は、星が明るく出現する直前の(まだ暗い)フレームを探します。そのフレームに写っているインサータの数値を読んで、現象時刻とします。
ビデオ画面はは2つのフィールドから構成されているのですが、カムコーダーについているモニターはそのうちの片方しか見られないものが多いのです。そのため、タイムインサータの数字が重ならず見やすくなります。しかし、露出の半分しか見ていないことから、星が消えたのかそれとも半分程度の光になっているのかはわかりません。
そこで、外部モニターに接続し、星の消えるようすは外部モニター、時刻はカムコーダーのモニターで確認すると、正確な時刻を得ることができます。ただしこれは、カムコーダーのモニターが、先に表示される方のフィールドを表示している場合です。後から表示されるフィールドがモニターに表示される場合には、表示時刻から0.02秒差し引いて補正してください。
6.パソコン
上記のように、ビデオカメラをモニターにつなげてコマ送り再生をすることでも、時刻を得ることができます。しかし、TIViを用いた場合は、秒の小数点以下の部分で二つの数字が重なり読み取りにくくなっています。また、どちらの数字を選んだらよいかわかりません。この時点で、0.01秒以上の誤差が入り込んでしまいます。より精度よく、快適に解析を進めるためには、パソコンの利用をお奨めします。
ここでは、ミニDVテープの利用の場合について説明します。ミニDVカムコーダーをiLinkでパソコンにつないでキャプチャします。キャプチャソフトとしては、 Area61ビデオキャプチャ というソフトウエアが機能操作性ともに充実しています。(ダウンロードは こちら から)
パソコンには、 AVISynth というソフトウエアをインストールしておきます。
また、キャプチャした画像を解析するためには、 Limovie というソフトを利用することができます。このソフトを使うと、重なった二つの数字を分離して見ることができます。求めるフレームの中央時刻は、TIViの場合は、二つの数字のうち早いほうの数字ですので、そちらを現象時刻として報告します。Limovieはこのほかにも、ビデオから星の光度変化を測定し、様々な解析を行うことができます。詳しくは、Limovieの マニュアル および 作者のサイト を参照ください。